産婦人科医・稲葉可奈子先生に聞く、月経カップの疑問


産婦人科医の稲葉可奈子先生へのインタビュー第二弾です。
今回は、みなさんから寄せられた月経カップに対する様々な疑問にお答えいただきました。ぜひ読んでみてください。


●稲葉先生からみた月経カップのメリット、デメリットは?

月経カップのメリットは、ナプキンを買い続けないで済むので経済的で、ゴミも出なくてサステナブルなところ。また、運動や水泳をする方は、タンポンのように紐も出ず、違和感がなくてよいと思います。
デメリットは、出し入れがスムーズにできる方となかなかできない方がいらっしゃると思うので、だれでも気軽に使えるわけではないという意味で若干ハードルが高いかもしれませんね。

 

●月経カップの使用に適した身体と適さない身体はある?

特に適さない身体というのはありません。自分で入れられるのであれば問題ないです。経血量が多すぎて月経カップを入れてもすぐに溢れてしまうという方は、産婦人科を受診してください。
更年期の方は、腟が乾いて入れづらいという場合はあると思います。
出産後に生理がきたときも、出産して数ヶ月経っていれば子宮口が開いていることはないので使用して問題ありません。同じく、流産や中絶をされた方でも、その後生理がきたタイミングから月経カップを使っても大丈夫です。
また、不妊治療中に使用しても治療の妨げにはなりません。
ミレーナを装着されている方でも、月経カップを使用できます。
性交渉の経験がない方は、腟の入口が狭いので、入れるのが難しい場合があります。処女膜は膜ではなくひだ状のものですが、血が出なければ処女膜は傷ついていません。痛いのに月経カップを無理して入れると処女膜が傷ついてしまうことがありますが、ちょっと血が出るくらいでしたらあまり影響はありません。でも、痛い場合は無理をしないでください。

 

●腟はいつまで成長するの?何歳から月経カップは使える?

思春期になると、まだ身長に多少変化があっても骨盤は成長し終わっているので、思春期以降は腟の長さはほぼ変わりません。
ただし、腟は成長しきっていても、性交渉の経験がないと腟の入口が少し狭いので、タンポンサイズなら入れられる場合も、月経カップサイズだと折っても入れるときに痛みがある場合はあると思います。
月経カップも使ってみたいという中高生の方が試してみる分には問題ないですが、タンポンを問題なく使えたとしても、月経カップはタンポンよりも入れる部分のサイズが大きいので、入れるときに痛みを感じたり、入れられない可能性があります。それをわかった上でトライしていただくのは大丈夫です。

 

●月経カップを使うとトキシックショック症候群になるの?

タンポンや月経カップでなくても起こりうる、黄色ブドウ球菌が原因で発症する敗血症のような感染症です。タンポンや月経カップを使ったからなりやすいというわけではなく、タンポンや月経カップを長時間入れっぱなしにしてしまうと、黄色ブドウ球菌が繁殖してリスクが高まります。適切な時間で交換するなど、基本的な使い方をしていれば問題ありません。使用時間を守ることと、取り替えるときに手を洗って清潔にしてから行うことが大切です。

 

●月経カップを使うことで腟内環境は悪くならない?

月経カップの使用時間を守って、長時間入れっぱなしにしなければ悪影響はありません。異物が入りっぱなしという状況は、感染やトキシックショック症候群の原因になるので、使用時間を守ることが大切です。

 

●月経カップを使うことで細菌性腟炎やカンジダになることはない?

細菌性腟炎については、月経カップの使用時間を守って、長時間入れっぱなしにしなければ大丈夫です。カンジダは月経カップの使用にはまったく関係ありません。

 

●風邪をひいているときなど免疫力が下がっているときでも月経カップを使っても大丈夫ですか?

基本的には、風邪をひいていても、使用時間や洗浄方法など、正しい使い方を守っていれば使用して問題ないです。

 

●月経カップのサイズ、自分の身体に合ってるかどうやってわかる?

自分の腟の長さは自分で指を入れてみたらわかりますが、月経カップは腟の一番奥の子宮口のところにはめるものなので、腟の長さは気にしなくて大丈夫です。一般的には月経カップの長さよりも腟が短いことはありません。月経カップが出てしまうという場合は、奥まで入れられていないことが多いですが、まれに生まれつき腟が短い方もいらっしゃるので、気になる場合は産婦人科でご相談下さい。

 

●月経カップを使って過ごしているうちに、だんだん下がってくるのはなぜ?どうしたらいい?

それは月経カップを腟の奥までちゃんと入れられていないためだと思います。入れるときにもっと奥まで入れるようにしてみてください。
また、骨盤底筋がゆるんでいると、子宮口自体が下がってきていたり、腟自体もゆるんでいる場合があるので、その状態だと月経カップが下がってくる可能性があります。そういった場合は、骨盤底筋を鍛えるとその状態が改善することがありますし、鍛えること自体で予防にもなります。すでに子宮口が下がっている違和感がある場合は、産婦人科を受診していただければ治療ができます。なお、そういった状況になるのは、産後や加齢によるものが多いです。

 

●月経カップが奥まで入ると、違和感がないのはなぜ?

腟の奥は腟壁の伸縮性が高くしなやかで伸びがよいので、奥におさまれば、違和感もないし、月経カップが落ちてくることもなく、腟壁にぴたっとくっついてくれます。

 

●月経カップを使うことで腟が広がって戻らなくならない?

それはありません。腟壁は伸縮性が高くてしなやかだからです。

 

●月経カップを入れて活動中、座っているときに痛みや違和感を感じるのはなぜ?

こちらも月経カップが腟の奥の適切な位置に入っていないためと思われます。

 

●月経カップで尿道が圧迫される気がする...どういう状況?

もしそういった状況があるとすると、月経カップが適切な位置におさまっていないか、子宮が下垂している可能性があります。腟が狭くて尿道を腟側から月経カップが圧迫するという場合もあるかもしれませんが、そのような場合は月経カップのサイズ(長さではなく直径)があってないのかもしれません。

 

●月経カップをしたまま、うんちをするときに月経カップが排出されそうな感覚があるのは普通のこと?

そのような感覚になることはありえます。なぜなら、腟の真後ろに直腸があるので、そこを便が通るときに、月経カップが後ろから圧迫される可能性があります。月経カップのサイズや硬さにもよるため、違和感がなければ、そのまま排便して大丈夫ですし、月経カップが押し出されそうであれば、一度月経カップを取り除いて排便をしてください。


●月経カップを寝ているときに使うデメリットはありますか?経血が逆流することはない?

ないです。「腟=子宮の外」に出た経血は簡単に子宮へ逆流することはありません。寝ている間も安心して使用して大丈夫です。

●スキューバダイビングやスカイダイビング、飛行機など、気圧・水圧が変わるときでも月経カップは使って大丈夫?

まったく問題ないです。内臓がつぶれることはないのと同じことです。

 

●外出先で月経カップを洗浄できないときはどうしたらいい?

月経カップに入った中身(経血)を捨てて、トイレットペーパーで拭き取ってもらえれば大丈夫です。また、除菌シートなどで拭き取って再挿入しても問題ないです。取り替えるときは、必ず手指を清潔にした状態で行うようにしてください。また、少なくとも1日1回は月経カップを洗浄するようにしてください。

 

●月経カップを取り出す時にカップが斜めになっているのはどうして?

腟の形はみんな傾いています。入れる時は真っ直ぐ入れていても、その後活動している最中に適した位置に収まっていくので、カップの向きが変わっていくことは不思議なことではありません。また、腟の奥と子宮口の位置関係は個人差がありますが、大きな違いはありません。

 

●生理が今日来る!とわかっている場合に、月経カップを先につけても大丈夫?

問題ないです。月経カップの使用時間を守ってもらえれば大丈夫です。

 

●万が一、決められた使用時間を超えて月経カップを使ってしまった場合はどうしたらいいですか?

月経カップの決められた使用時間は目安ですので、身体に異常がなければ慌てなくて大丈夫です。落ち着いて、気づいた段階で月経カップを取り出してください。もし身体に異常を感じた場合は、すみやかに産婦人科を受診してください。

 

●月経カップが取れなくなった場合、病院に行っても大丈夫ですか?

もちろん大丈夫です。心配せずにお気軽にお越しください!

 

●稲葉先生からのメッセージ

この記事を読んでくださっている方は、生理に関心のある方だと思うので、PMSや経血量が多いという場合など、なにか困った症状があったら、ぜひ産婦人科に気軽に相談してください。HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の無料接種が今年度までの方(1997/4/2~2009/4/1生まれの女性)は今年の夏までに打ち始めていただきたいですし、20歳以上の方はみなさん子宮頸がん検診も受けてくださいね。

稲葉先生ありがとうございました!
みなさんの月経カップに関する不安や疑問が少しでも解消したらうれしく思います。ぜひ興味を持った方は月経カップを試してみてくださいね。

関連記事:「産婦人科医・稲葉可奈子先生に聞く、生理のこと」

 稲葉可奈子先生 プロフィール
産婦人科専門医・医学博士
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得
双子含む4児の子育て中

2024年7月に渋谷駅直結のレディースクリニック 「Inaba Clinic」 を開業。「あらゆる年代の女性の健康とその先の未来をサポート」をモットーに、生理痛、PMS、妊娠希望、性感染症、更年期症状など、どんな症状でも相談しやすい女性のかかりつけ産婦人科です。
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / みんリプ!みんなで知ろうSRHR 共同代表/ メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表
フジニュースα公式コメンテーター / Yahoo!エキスパート / NewsPicksプロピッカー
書籍『シン・働き方 ~女性活躍の処方箋~』など







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